WIXOSS DIVA(A)LIVE Another Story 『DayBreaK』 

「いくよ、てっぺん!目指せ、夢限少女に届くまで!」

 

カードゲーム「WIXOSS」が世界的な普及を迎え、オンラインのバーチャル空間「WIXOSSLAND」ではプレイヤー自身がルリグとなって行われるカードバトルが流行していた。その中でも3人でチームを組んで戦う「ディーヴァバトル」が最大の人気を誇り、彼女たちはファンである「セレクター」の数を競っていた。

 

そのディーヴァバトルでトップを目指す者達も居る一方、数々のプレイヤー達が現れては消えを繰り返していった。

これはその中でも、日の目を見るために挑んだ、とある彼女たちの物語である。

 

 

WIXOSS DIVA(A)LIVE  Another Story 『DayBreaK』

・この作品はテレビアニメ「WIXOSS DIVA(A)LIVE」の二次創作作品です。

・本編とは一切関係ありません

・オリジナルキャラクターが登場します

以上をご理解いただいた上で、読んでいただければ幸いです。

 

第1話 「黄昏」(前編)

 

「お母さん!嫌だ!お母さん!!」

とある少女が母親を呼ぶ声がする。

「お母さん、お母さん!!」

はっと目が覚め、ベッドから上半身を起こす。

いつも見てしまう夢だ、と深呼吸し落ち着こうとする。

「また、あの夢か……」

時計を見ると針は午前4時を指していた。

登校までまだ時間がある、そう思い再び彼女は眠りについた。

 

「おばさん、おはようございます」

「あら瑠璃ちゃん、おはよう」

彼女は颪辺 瑠璃(おろしべ るり)、とある高校に通う普通の少女だ。

「お姉ちゃん!お母さん!おはよー!」

元気な声が部屋中に響く。

この子は妹の深月(みつき)、そしてこの2人の面倒を見ているのは母親である。

といっても、瑠璃と血がつながっているわけではない。

「瑠璃ちゃん大丈夫?昨日もだいぶうなされてたようだけど」

「大丈夫ですよおばさん、いつものことですから」

朝の会話は大体こんな感じになりがちである。

 

『母子無理心中事件』

3年前、あるシングルマザーが娘と無理心中を計るも母親だけが息を引き取り、娘は生き残った。

瑠璃はその時の娘である。

 

「おばさん、行ってきます」

「お母さんいってきまーす!」

「二人とも、気を付けてね」

朝に2人で登校するのが日課になっている。

「お姉ちゃん、なんか暗いけど何か変なものでも見たの?」

「ううん、何でもない、大丈夫よ」

3年前の事件以降、彼女は誰かに素直に心を開けずにいる。

母親に手をかけられ、生き残ったものの、すべてを失った彼女を、何の迷いもなく受け入れてくれたのがおばさんであった。

あの日以来、「母親」というものが受け入れられないという思いと、あんなに好きだった母がどうしてという思い、そしてそんな彼女を「家族」として受け入れてくれたおばさんに対する申し訳なさが彼女をそうさせてしまっている。

「じゃあお姉ちゃんいってくるねー!」

通学路は途中から別々になる。

通いなれた道を彼女はいつも一人で通学する。

『こんな私が友達なんて』

そういった気持ちを持ってしまった彼女はいつしか、他人を遠ざけてしまっているのである。

 

「で、あるから、したがって~」

傍から聞いていても退屈な教師の話が教室内に響きわたる。

適当に話をノートにまとめつつ、話を聞き流す。

何をやるにも身が入らず上の空になってしまう。

「早く終わってくれないだろうか……」

その一言にはいろんな思いが詰まっていた。

 

キーンコーンカーンコーン

終業のチャイムが響き渡る。

部活に向かう生徒、真っ先に帰宅する生徒がいる一方、瑠璃は足取りを図書室に向ける。

彼女の唯一の楽しみ、「WIXOSS」を考えるためだ。

新しくも古くもない図書室は人気も少なく、落ち着いて一人になるには最適だ。

「オリジナル・サプライズ、バッドチョイス、クトゥル・ヘイル、どうしたものかな」

一人でデッキの構築を考える、この時間こそが、彼女が一人きりになり、夢中になり、何もかも忘れられる至福の時間であったのだ。

WIXOSSは世界的に普及に普及しているカードゲームで、特にオンライン空間「WIXOSSLAND」ではプレイヤー自身がルリグとなって行われるバトルが流行していた。

オンラインの中では自分じゃない自分になれる、誰からも関係なく、過去に囚われることもなく、一人になれるからだ。

母親を亡くし、塞ぎ込みな彼女を心配したおばさんが、彼女と同年代の娘らの中ではやっているものだからと、それで友達の1人でもできてくれたらいいなと思い、WIXOSSを勧めたのがきっかけである。

「なかなかうまく決まらないな」

彼女が頭を悩ませる。

それもそうだ、彼女はそのWIXOSSLANDのとあるフォーマットの元トップクラスの実力者であった。

巧みなプレイング、迷いのない判断、そして徹底的に相手を追い詰めるスタイルからいつしか彼女は、周りから『魔王』と呼ばれるようになっていた。

しかしそんな栄華を誇っていた彼女もここ半年間で勢いが落ち、今はなりを潜めてる。

環境の変化、時代の変化、そして彼女自身の心境の変化が大きい。

かつては夢中になっていたバトルも、トップになったものの、心はどこか満たされなかったからだ。

そしていつしか彼女はトップランキングから名前を消しつつあったのだ。

 

「弱そう」

瑠璃のいるテーブルの奥からメガネの少女が呟く。

五月雨 蘭華(さみだれ らんか)、この図書室を管理する図書委員の1人。

普段は他人の意見などに耳を貸さない瑠璃であったが、この時はなぜか虫の居所が悪かった。

「なんだって?」

つい反論してしまった。どこの誰ともわからない奴に弱そうと言われたのだ、無理もないだろう。

ついかっとなり言葉を返す。

「なにか文句あるかよ」

らしくない、高ぶった声を出した。

だが蘭華は物怖じせず言葉を返す。

「その組み合わせ、エナも多いし、防御が一辺倒すぎて特定の相手やカードで詰みそうってだけっす」

「何を!」

瑠璃は反論をしそうになったが、ふと我に返ってみる。

彼女の言うことも一理ある。

ここで怒りを抑えればよかったが、このまま引き下げるのは瑠璃自身が許せなかった。

何より、このデッキを否定されているように感じてしまい、そこから『彼女自身』を否定されているように感じてしまったからだ。

「ふん、どうせ口だけだし、お前みたいなガリ勉メガネに何がわかるんだ」

「へー、こんなガリ勉メガネに意見を言われて怒るなんて、意外と気が小さいんすね、『魔王』さん?」

瑠璃の呼吸が一瞬止まる。

何故瑠璃のことを知っているのか、何故『魔王』と分かったのか、不意を突かれて驚いたからだ。

顔にはでないものの、瑠璃自身は少し驚いた。

「なぜそれを知っている?」

瑠璃は聞き返す。

「なぜってあっしも一応、ある程度は知識はありますからね」

蘭華は淡々と答える。

虫の居所の悪い瑠璃は彼女にこんな提案をしてしまう。

「そうか、なら話は早い。あたしとバトルしろ」

いきなりバトルを吹っ掛ける。

この時、瑠璃自身も自分で疑問に思わないほどなぜか感情が高ぶっていた。

「いいっすよ、あっしも今暇なんで。せっかくの魔王様のアプローチ、受けて立ちますよ」

売り言葉に買い言葉だ。蘭華もあっさりと承諾した。

「「Wish In!!」」

こうして、瑠璃の日常は少しずつ動きだしていく……

 

WIXOSSLAND、世界中のWIXOSSプレイヤー達がネットを通じて集まる仮想世界である。

プレイヤー自身がルリグとなって戦うバトルが盛んに行われている。

瑠璃、蘭華がWIXOSSLANDに入る。

「さて、魔王様はどこかな?」

ここでは様々なプレイヤーがいる。

蘭華はこの世界では「ランカ」で登録されている。

「俺はここにいるぞ」

『ラピス』、それが瑠璃のネームだった。

「では早速、バトルを始めるとしますかね」

2人の戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

「ザロウ、ダイヤブライドでアタック」

「なにを!エクシード!」

激しい攻防が続く。

「これでとどめっす!」

「甘いな、アーツだ!」

「馬鹿な!」

 

「なるほど、魔王の名前は伊達じゃないっすね~」

ランカが落胆する。

「お前も、口先だけではなかったな。」

ラピスも賞賛の言葉を送る。

ラピスが勝ったがお互いに接戦であった。

「戦って分かったっすけど、どうしてランキングやめてしまったんすか?腕は落ちてないと思うんすけど?

ランカは戦って感じていた。腕は魔王の名前に恥じない戦いだと思ったからだ。

こんなに強いのになぜ、聞かずにはいられなかった。

「なんでだろうな、俺でさえわからない。ただなんか、心が満たされないないんだ。」

ラピスもつい本音が漏れる。

こんなに熱くなってバトルしたのは久しぶりだったからだ。

油断していたわけでも、手を抜いたわけでもなく、本気で戦った。

一歩間違えれば、負けていたのはこちらかも知れなかった。

「ふーん、魔王様にも悩みがあるんっすね、案外年相応なんすね。」

ランカも思わず思ったことが口に出る。

知識、経験、対策に抜かりはないと思っていたがそれでも負けたからだ。

「お前こそ、そこまでできるのに、何故ランキング戦をやらないんだ?俺にかなわなくとも上に行けてもおかしくないはずだろ?」

ラピスがここまで言うのも珍しい。何故なら彼女は戦った後すぐさま退場するので、その戦いや立ち振る舞いから『魔王』といつしか呼ばれていた。

自分と渡り合える相手に本気をぶつけたことで心を少し開いたのかも知れない。

 

「さて、聞きたいことや言いたいことは山々っすが、ここいらが潮時っすかね」

現実時間が夕方に迫っていた。

そしてWIXOSSLANDから出ようとした時、二人に声をかける人物が現れる。

「もし、そこのお二人さん、少しよろしくて?」

振り返ると一人の少女が佇んでいた。

「なんすか?なんか用すか」

ランカが言葉を返す。

すると少女はこう言った。

「はい、先ほどから対戦を拝見させていただきました、まことに二人ともお見事でしたわ」

「御託はいい、要件を言え」

ラピスが言い放つ。悠長に話すと長くなりそうだと思った。

「ありがたきお言葉、まずはご挨拶をば、わたくしはただのしがないフロイライン(小娘)、『フレイ』とでもお呼びください」

深々と頭を下げ、名を名乗る。

気品を感じさせる振る舞いだが、何か下心を感じざるを得なかった。

「あなた方の腕を見込んでお願いがあります、どうかわたくしめとともにディーヴァバトルのチームを組んではいただけないでしょうか?」

「……。……」

ランカが唖然とする。それもそうだ。いきなり会ってディーヴァバトルのチームを組んでくれと言われたらこうなるのは当たり前だ。

「断る」

彼女の申し出をラピスはきっぱりと切り捨てる。

「何を言い出すかと思えば、下らん」

そういうと彼女はWIXOSSLANDを後にした。

「あー、まあそういうことで、気を悪くしないでほしいっす、んじゃ」

ランカも後を追うように退席する。

「こうなるのは当然ですわよね、ですが、わたくしはあきらめませんわよ」

 

 

いつもの帰り道、いつもと違うのは瑠璃の隣に蘭華が居ることだ。

「ついてくるなよ」

「べつに好きでついてきてるわけじゃないっすよ、帰り道が同じなだけっす」

いつも一人でいる瑠璃にとって誰かと帰るなど、初めての経験だからだ。

瑠璃の足が早まる。心のどこかでまだ彼女を拒絶してしまうのだ。

決して自分は他人とかかわっていけない、そう思っている。

だが負けじと蘭華もついてくる。

蘭華も心のどこかで彼女を知りたいと思ったのだろう。

少し歩いたあと蘭華が口を開く。

「あー、あっしはここなんで、んじゃ颪辺さん、また明日」

そう挨拶して彼女は別方向に歩いて行った。

「あっ……」

言葉を返そうとするが、こういった経験がないので瑠璃の口が動かない。

しばらくして蘭華の後姿を見ると、瑠璃も帰路についた。

 

(続く)